12年生「卒業プロジェクト報告会」に参加して

ようやく本格的な寒さがやってきた12月の初旬、
最終学年の卒業プロジェクト、
略して「卒プロ」発表に参加してきました。

一人目の発表者のテーマは
「クロスステッチで北欧神話の世界樹を描く」
というものでした。

世界樹は「ユグドラシル」と呼ばれ、
北欧神話において
この世界を支え守ってくれている
とてつもなく大きな樹です。

どうしてクロスステッチという手法を
選んだのか?ということですが
「小さな積み重ね」でできることを
したかったと言っていました。

今まで何かやっても
中途半端で終わることが多く、
「何かを最後まで完成させたい」
「計画性のない自分を克服したい」
という気持ちがあったそうです。

小さな積み重ねを計画的に
繰り返さなければならない
クロスステッチはまさに
ぴったりの手法だったのでしょう。

始めに北欧神話と
ユグドラシルの説明を丁寧にしてくれました。

北欧神話には人間、神族、巨人や妖精などなど
9つの世界があり、ユグドラシルは
それぞれの世界を支え、
生命をめぐらせています。

ユグドラシルは描く人によって
全然違う絵になるそうです。

彼女もまた
「改めて私なりのユグドラシルを考えたい、表現したい」
という想いがあり、過去に描かれた他の人の絵を
あえてあまり参考にはしなかったそうです。

彼女が感じる北欧神話の魅力の一つは、
出てくる神々が人間っぽく、
「弱さ」も抱えていることだと言っていました。

実際の作業に取り掛かると
問題にぶつかることも
当然ながら幾度もありました。

でも彼女は問題にぶつかる中で
「ほんの少し視点を変えるだけで道は開けてくる」
ということに気づきます。

また集中できる時間の限界や、
どうしたら快適に作業できるのか?
といったことも分かってきました。

そうした発見を通して
最後までがんばることが出来、
完成に至ることができました。

計画性のなかった自分にも
向き合えたのだと思います。

出来上がった作品は
本当に細やかにステッチされており、
色使いがとても淡く繊細で、
まるで虹の中の世界のように見えました。

最初にしっかりとした完成形があったわけではなく、
自分のイメージを高くしていき
完成形に近づけていったそうです。

ときには北欧神話の世界観を固定せず、
柔軟に考えて自分の作品に取り込んでいきました。



そんな様々な「過程を楽しみたかった」と
言っていました。

彼女の作った素晴らしい
「わたしのユグドラシル」がそこにありました。

二人目の発表テーマは
「英語の小説を翻訳する」というものでした。

このテーマにした理由は、
英語が身近に触れられる家庭で育ち、
英語に興味があったことと
文章が書きたかったということが
結びついたからだそうです。

翻訳のための本を書店で探していて、
なんとなく惹かれるものがあり手にしたその本は、
ナチスのユダヤ人迫害が背景にある物語でした。

直接そのことが書かれているわけではなく、
読んでいるうちに浮かび上がってくる、
といった感じで書かれています。

翻訳する作業はとてもエネルギーが必要で
なかなか思ったように進まなかったそうです。

一通り訳したのですが、
上手くいかず落ち込みます。

語順や助詞などが不自然な箇所を
直してゆきました。

最終的に仕上がった翻訳のある場面を
朗読してくれましたが、とても自然で
分かりやすい日本語に訳されていました。

また彼女が特に大切に訳した文章を
紹介してくれました。

「The heartless have a heart」という文章です。

木こりの奥さんが
森で捨てられたユダヤ人の赤ちゃんを拾います。

異なる宗教を信じ、何を考えているか
分からないユダヤ人をheartlessだと
木こりは受け入れることができずにいましたが
奥さんに上記の言葉を言われます。

そして自分の手で赤ちゃんの心臓の鼓動を
感じたとき木こりの気持ちが変化していきます。

その赤ちゃんを一人の「人間」だと認識したのです。

そこで彼女は「heart」という言葉を、
民族・宗教は違っても皆が持っている
「心」と訳したいと思いました。

この英語の文章を
「心なき人にも心がある」と訳しました。

彼女が卒プロのため偶然手に取り、
翻訳したのはお互いに異なる宗教・民族の間の
「心」の物語でした。

彼女も自分の「心」を知りたくて
必然的にこの本に出会い、読みながら
自分と自分の心に出会っていったのかな、と思いました。

最初は、多くの単語の意味も、
文章の組み立て方も分からず
始めた翻訳作業ですが、
最後には「『分からない。できない』
ということに向き合う力を知り、
持つことができた」と言っていました。

世界樹、ユグドラシルのように大きく、
豊かに人が育つには、
地上に見えている部分以上に
根を深く張らなければならないと思います。

二人の受けたシュタイナー教育は
たくましい根を張るための力になってくれたに違いない、
と思いました。

(5・7年生 保護者)

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