シュタイナー教育について
オルタナティブ教育としてのシュタイナー 教育
学校制度による公教育・義務教育は、近代国家の基本装備として始まりました。国家の繁栄なしには個人の幸福はない、教育は国家のために行なうということが大前提でした。これに対して、1900年代初頭のヨーロッパで「子ども自身のための教育」という観点から生まれたのがオルタナティブ教育です。シュタイナー教育は、モンテッソーリ教育と並ぶオルタナティブ教育の老舗のひとつとして知られています。
シュタイナー教育では、国民として習得させるべき科目を教え込むのではなく、「社会の中で自分らしい人生を生きられる人間が育つためには、どう学べばよいか」という観点から、カリキュラムが考え抜かれています。
ルドルフ・シュタイナーとシュタイナー学校
ルドルフ・シュタイナー(1861~1925)は、第一次世界大戦後のオーストリア、ドイツで新しい社会のあり方を模索する時代の要請に、人智学という独自の哲学からさまざまに応えた人物でした。その対象分野は、医療・農業・経済・建築・芸術・宗教など多岐にわたります。そのなかでも、ヴァルドルフ教育、日本ではシュタイナー教育と呼ばれる学校運動は世界中に広がっています。2024年現在、世界のシュタイナー(ヴァルドルフ)学校は1200校を超えており、うち日本では7校がワールドリスト(Waldorf World List)に登録されています。1919年に最初の学校が生まれてから100年を超えてなお発展を続けています。
日本シュタイナー学校協会Webサイト http://waldorf.jp
私たちが目指す「自由な人間」とは
子どもたちには、この世界・社会で生きることをポジティブにとらえ、自分らしい貢献による社会参画を自明のものとして学園を巣立っていってほしいと私たちは考えています。
心身ともに健やかであり、等身大の自信や自己肯定感をもち、世界の美しさ、自然の神秘、人間の強さ・気高さ、人間らしさや弱さなどを存分に味わったうえで、そこに生きる自分を見出していくこと。それは、限定されたコミュニティや趣味に閉じこもって生きる自由とは異なります。
私たちは、子どもたちが既存の権威や価値観、世の趨勢にとらわれず、自らのなすべきことを内発的に意思し、それを実現・実行できる力をもつ人間に育つことを望んでいます。
シュタイナー 教育を支える考え方
シュタイナー教育は「自由な教育」ではなく、「自由への教育」だと言われています。真に自由な意思決定のできる人間を育てる方法は、小さい頃からなんでも自分で決めさせる(意思決定の練習をさせる)ことではないと考えているからです。シュタイナーは人間の成長を7年周期でとらえ、7歳から14歳の間に感情を豊かにはぐくむことが、14歳以降、思考力・判断力を育て、自己を確立していく基礎になるとしています。思考の力が十分に育ち、自分で責任ある選択・意思決定ができるようになるまで、子どもたちはむしろ、秩序と調和のある美しく整えられた環境で、愛すべき権威に身を委ねて成長することが大切です。
このような人間観に基づき、シュタイナー学校では、1〜8年生(小学1年生〜中学2年生に相当)の間は、原則として一人の担任がもちあがり、その担任に導かれるかたちで安心してのびのびとこの世界の不思議に出会い、感動する体験を通して学びを積み重ねていきます。そして、高等部にあたる9〜12年生(中学3年〜高校3年生に相当)では、専門的な知識をもった講師の授業や実習を通して社会を知り、自分自身の考えを述べ、異なる意見を理解し、合意形成へのプロセスを積み重ねることで、自分自身の価値観や世界を見直しながら学んでいきます。
シュタイナー教育の特徴のひとつは、このような「子どもの成長・発達段階に合わせたカリキュラム」にあります。
また、シュタイナーは「教育は芸術であるべきだ」と述べています。シュタイナー学校ではあらゆる授業が詩・歌・リズム、豊かな音色・色彩に満ちており、子どもたちは感覚を全開にして学びます。人間や自然の法則を知識や情報として記憶するのではなく、自分自身の感情と結びついた体験として自分のものにしていくのです。そして、家づくりや演劇などのさまざまな体験は、ふさわしい時期に行うことで子どもの内面の成長を助けます。
シュタイナー学校では12年間を通して学びが感動を伴う体験であること、生涯を見通した働きかけであること、細分化し固定化した知識の暗記ではなく有機的な学びであること、その方法を教師自らが創り出していくことが教育の前提となっています。
12年一貫教育と8年担任制
1〜8年生の間は長期的な視野に立って発達・成長を促すため、できる限り一人の担任がもちあがります。担任は子どもたちが先生を模倣して学ぶ時期から、客観的・批判的になり、反抗する時期を経て、高等部へ送り出すプロセスに立ち会うことになります。
また、12年間のカリキュラムの枠組みはありますが、主要教科の授業は基本的に担任が担うことになっており、年間の授業計画、具体的なモチーフや教材、日々の授業実践の内容は担任の裁量に委ねられています。
一方で、外国語や芸術科目は1年生から各専科教員が担います。このため当学園では、常勤教員が互いのクラスに専科教員として入ることで、学園の児童・生徒全体を見守り育てる体制をとっています。
高等部にあたる9〜12年生については、「コーディネーター」が各クラスを担当し、授業については主要教科を含めて、外部講師を含む専門の教員が教えます。コーディネーターは、クラスの年間スケジュールを調整し、必要に応じて個々の生徒の将来や進路を見据えて伴走をします。
担任の採用については、国内外の「シュタイナー学校教員養成講座」修了を基本条件としています。教育実践は目の前の子どもとともに創造していくものなので、教員は常に学び続けています。当学園では教員が、日本シュタイナー学校協会を通じて、全国あるいはアジアの教員との交流を図り研鑽を積んでいます。
学力・成績評価
当学園では通知表による点数評価はありません。担任とすべての専科教員は、6年生までは保護者へ、7年生以上は本人へ、1年間の学びと成長・今後の課題等を文章で伝えます。これは通信簿にあたるもので、この学園では「つむぎ」と呼んでいます。また、担任は年度末やお誕生日にその子の成長を願う詩を一人ひとりに贈ります。
子どもにとって、学ぶことは本来喜びであり、生きることそのものです。毎日の学びが楽しく、明日の授業が楽しみとなり、昨日できなかったことが今日できるようになったという日々を送ることが大切です。担任は普段の授業での課題や宿題を通して子どもたちそれぞれの理解度や得手不得手を把握しています。お互いが個性を尊重しながら協働できることを目指しています。
高等部でも、「つむぎ」がありますが、エポックごとに担当講師が評価レポートを作成し、単位を認定します。理解度を自分でも確認するために、単語テストやテスト形式のプリントに取り組むこともあります。
なお、当学園は学校法人ではなくNPO法人のため高校卒業資格を得ることはできませんが、高等学校卒業程度認定試験を11年生で受験することとしています。
国内外の大学、専門学校などに進学している卒業生もいます。